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総裁選で透けてみえる自民党の病巣 [政治]

総裁選で透けてみえる自民党の病巣

【1】自民党総裁選で街頭演説を終え、握手する3候補。西村康稔、河野太郎、谷垣禎一各候補=23日午後1時57分、埼玉県川口市のJR川口駅前自民党総裁選で街頭演説を終え、握手する3候補。西村康稔、河野太郎、谷垣禎一各候補=23日午後1時57分、埼玉県川口市のJR川口駅前

 野党に転落した自民党は、いま総裁選の真っただ中だが、悲しいほど盛り上がっていない。都道府県連が行っている党員投票の投票率は軒並み20%台にとどまっているそうだ。

 今回の総裁選は、衆院選の大敗を受け、国会議員票が199票に激減しているにもかかわらず、党員票に300票も振り分けたので、党員票の比率はかつてないほど高まった。党員が結束すれば、国会議員の意向を無視して総裁を選ぶことができるチャンスにもかかわらず、この関心の低さは一体何なのだろうか。

 初の本格的な政権交代を目の当たりにし、「どうしてよいのか分からない」という虚脱感が広がっていることは間違いない。立候補した谷垣禎一元財務相、河野太郎元法務副大臣、西村康稔前外務政務官の「資質」の問題もあるだろう。

 もっとも優位に立つ谷垣氏は唯一の閣僚経験者であり、平成18年の総裁選に出馬したこともある。人格者であり、常識人でもあるが、優柔不断で決断力に欠けると言われる。野党総裁として自民党を再建し、政権奪回していこうという迫力もあまり感じられない。

 「異端児」として知られてきた河野氏はその過激さから「この人ならば自民党の古い体質に大ナタを振るえるのでは」という中堅・若手の熱い期待を受けて出馬したが、あまりのハチャメチャぶりに「もし総裁になったら、破壊の限りを尽くし、自民党が消滅してしまうかもしれない」との逆に不安感を増幅してしまっているように思える。

【2】西村氏は、安倍晋三元首相の「秘蔵っ子」として知られ、容姿端麗で頭もよく弁も立つが、「小粒」の感は否めない。「河野潰(つぶ)し」を画策する森喜朗元首相や町村信孝元官房長官の影が背後にチラつくこともマイナスになっているようだ。

 3氏は連日地方行脚に繰り出し、支持を訴えるが、なお党員の関心が薄いことを考えると、やはり「保守」を自認し、「安定感」を志向する旧来の自民党員から見れば、3氏の中に「眼鏡にかなう人材」がいないことを物語っているのではないか。

 だが、それだけだろうか。全国津々浦々にネットワークを広げる巨大組織の迷走ぶりを見ていると、自民党がもっと根本的な問題を抱えているように思える。

 自民党はつくづくよくできた政党だ。巨大な地方組織を抱え、資金収集能力もバツグン。各業界団体を組織に組み込み、選挙の時は強力な集票マシンと化す。政務調査会を中心とした政策立案能力も他党の追随を許さない。さらに党内の複数の有力派閥が競い合い、牽制(けんせい)し合うことで権力の暴走を監視し、何か決定的な失策があれば、派閥間で権力を移譲しあうことでダメージを薄め、下野を逃れてきた政党だ。

 最近は派閥の弊害ばかりがクローズアップされているが、派閥が人材発掘・育成機関であり、政党内の「絆(きずな)」を保つため重要な役割を果たしてきたことは間違いない。これが半世紀にわたって政権をほぼ独占することができたカラクリではないか。

 だが、裏を返せば、自民党は「政権政党」であることに特化した政党であり、党のすべての機関・組織が「政権政党」であることを前提に作られているのだ。真の野党となったいまは、党の中枢部にすべての権力を集中させ、時の政権の政策を批判し、不正を徹底糾弾し、政権転覆に追い込むための陣容こそが必要となるのだが、そんなノウハウもなければ、気概もない。ただただ茫然(ぼうぜん)自失となっているのが現状だろう。

【3】そしてもう一つ。保守政党を自認するならば、寄って立つ基盤をどこに求めるのかが重要になるが、そこがどうもはっきりしない。

 家族・親族・子孫のために今まで形作ってきた資産・利権をいかに守ろうと考える人々の利益代表になるのか。それともさしたる資産もなく、公平性・平等性・均質性を志向する人々の代弁者になるのか。自民党は元来、前者に足場を置いていたはずだが、打ち出してきた政策はむしろ後者の声を反映させたものの方が多い。

 「都会」と「地方」のどちらに軸足を置くかもはっきりしない。日々厳しい生存競争を繰り広げながら少しでも豊かな生活を享受しようと指向する「都会人」の利益を守ろうとするのか。地縁・血縁のネットワークの中で日々の暮らしを守る一方、「都会人」に一種嫉妬(しっと)心に近いまなざしを贈る地方の人々に足場を置くのか。自民党は両にらみの政策を打ち出したばかりに両方の勢力に不信感を抱かせてきたように思える。

 つまり自民党は、政党が寄って立つ基盤になる支持層をどこに求めてよいのかさえ分からなくなってしまったのではないか。総裁選に立候補した3氏はそろって「保守」を訴えているが、その定義を聞けばバラバラであることがその証左だろう。それこそが先の衆院選で大敗した真の原因のように思えてならない。

 ここまで書けば、自民党が再生するために何が必要なのか見えてくるのではないか。まずは「保守」を再定義し、支持基盤をはっきりさせる。その上で党組織を全面的に見直し、民主党を攻略する体制を整えることだ。

 そう考えると、自民党の再生の道のりはとてつもなく長く険しいものになりそうだ。もしかしたら再生する前に消滅してしまうかもしれない。それを自覚することが党再生の第一歩ではないだろうか。

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